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デジタル医学会 2026 / 招待講演

医師がコードを書く時代
AI Codingで医療アプリを作る

岡本 賢 / 愛育病院 小児科

これ、全部ひとりで作りました

APP 01

MINATON

港区の子育て情報を集約した医療情報アプリ。468記事。月間アクセス数千。

APP 02

専門医試験アプリ

小児科専門医試験の勉強アプリ。670疾患、過去問480問を収録。

APP 03

スライドシステム

今映しているこのスライドも自作。HTMLベースで7テーマ、エディタ付き。

プログラミングの正式な教育を
受けたことはありません

医学部卒。研修医を経て小児科医。コードを書き始めたのは2024年。

今日お話しすること

医師のアイデアが死蔵される構造的問題
なぜ臨床現場の知見がプロダクトにならないのか
3つのアプリを作って学んだこと
MINATON / 専門医試験アプリ / スライドシステム
AI Codingの始め方と、医師が作ることの意味
ツール選定から最初の1歩まで
PART 01

医師のアイデアは
なぜ実装されないのか

臨床現場はアイデアの宝庫

外来で毎日同じ説明をしている。患者さんが正しい情報にたどり着けない。カルテの文書作成に時間を取られる。医師は日常的に「これ、アプリがあれば解決するのに」と感じている。

  • 「この病気の説明、毎回同じことを話している」
  • 「親御さんがネットで不正確な情報を見て不安になっている」
  • 「勉強用のまとめノートを効率的に管理したい」
  • 「学会発表のスライドを毎回ゼロから作り直している」

でも、ほとんど実装されない

従来のルート

企画書を書く

開発会社を探す

見積もり: 300万〜

開発期間: 6ヶ月〜

...諦める

壁の正体

  • コストの壁:個人で出せる金額ではない
  • コミュニケーションの壁:臨床の文脈がエンジニアに伝わらない
  • 時間の壁:臨床しながら開発プロジェクトを管理できない
  • イテレーションの壁:1回作ったら修正が高額

臨床を一番理解している人が
プロダクトを作れない

ドメイン知識と実装力が分離していることが、医療ITの根本的なボトルネック。

AI Codingが構造を変える

Before

医師がアイデアを持つ
→ エンジニアに外注
→ 仕様のすれ違い
→ 高コスト・長期間
→ 多くが頓挫

→

After

医師がアイデアを持つ
→ AIに自然言語で指示
→ コードが生成される
→ すぐ試せる・すぐ直せる
→ 臨床知がプロダクトになる

Claude Code という橋

Anthropic社が提供するAIコーディングツール。ターミナル上で自然言語の指示を出すと、AIがファイルを読み、コードを書き、実行し、エラーを修正する。「考える→実行する→確認する」のループを自律的に回す。

医師の言葉で指示

プログラミング用語を知らなくても、やりたいことを日本語で伝える

AIがコードを書く

ファイル構成、UI設計、API連携まで自動生成

動くアプリが完成

Webアプリとして公開。修正も自然言語で即座に

CASE 01

MINATON

港区の子育て情報を「処方」する

外来の15分で伝えきれない

小児科の外来は1人あたり10〜15分。病気の説明、ホームケア、受診の目安、薬の飲ませ方。伝えたいことの半分も伝わらない。親御さんは帰宅後にスマホで検索し、玉石混交の情報に振り回される。

「先生に聞いたことを家で思い出せない」「ネットで調べたら怖いことが書いてあった」

(外来での保護者の声)

信頼できる医療情報を
外来で「処方」できたらどうか

薬と一緒に、情報も渡す。これが「情報処方」のコンセプト。

MINATONの全体像

  • 468記事:港区の予防接種、健診、疾患別ホームケア
  • 医師監修:すべての記事を自分で執筆・校閲
  • AIチャット:記事を参照するRAGベースの質問応答
  • 多言語対応:英語・中国語での閲覧
  • 情報処方:外来で記事URLを直接紹介

Next.js + MDX + Vercel

MINATON トップページ

どうやって作ったか

臨床で「よく聞かれること」をリスト化

外来で繰り返し説明しているトピックを洗い出す。これが記事のネタ元。

Claude Codeに「こういうサイトを作りたい」と指示

デザイン参考サイトのURLを渡し、トーンと構成を伝える。コードは全てAIが生成。

記事をMDXで書き、AIにレビューさせる

医学的内容は自分で書く。文体の統一、SEO最適化、リンク整備はAIが担当。

Vercelにデプロイして即公開

GitHubにpushするだけで自動デプロイ。修正も即反映。

実際のやりとり

Claude Code への指示(実際のプロンプト)
$ 突発性発疹の記事を書いて。
   対象読者は0-1歳の保護者。
   構成: 症状→経過→ホームケア→受診目安。
   トーンはやさしく、でも正確に。
   参考: AAP Red Book, Nelson Textbook。

→ 3分後、MDXファイルが生成される
→ 医学的内容を確認・修正
→ git push → 即公開

MINATONの現在地

468 記事数
0 外注費(円)
1 開発者(人)

Case 1 の学び

  • ドメイン知識が最大の資産:「何を書くべきか」を知っているのは医師だけ。技術はAIが補える。
  • 完璧を待たない:最初の10記事で公開。フィードバックを受けて改善。
  • 外来で使って初めて価値が出る:作って終わりではなく、診療の中に組み込む。

臨床で使う → データが溜まる
→ 研究になる → 論文になる

プロダクトは論文のための装置にもなる。LLM×患者教育のSRを進行中。

CASE 02

専門医試験アプリ

自分の勉強道具を自分で作る

専門医試験の勉強は非効率

従来の勉強法

  • 教科書を通読 → 膨大すぎて終わらない
  • 過去問集を解く → 解説が不十分
  • ノートにまとめる → 検索できない
  • 暗記カード → 作るのが面倒

本当に欲しかったもの

  • 疾患ごとに構造化されたまとめ
  • 過去問と解説がリンクしている
  • 弱点を自動で特定してくれる
  • スマホでいつでも復習できる

作ったもの

小児科専門医試験に特化した学習アプリ。疾患データベース+問題演習+弱点分析の3機能。

SPEC
  • 670疾患のメモ・まとめ
  • 過去問480問 + 詳細解説
  • 12分野の優先順位マトリクス
  • Studyモード(1問ずつ解説付き)
専門医試験アプリ

「自分が欲しい」が最強の仕様書

要件定義書はない。自分が勉強していて「ここが不便」と感じるたびにClaude Codeに指示を出す。使いながら作る、作りながら使う。このサイクルが1日に何度も回る。

実際の指示
呼吸器の疾患ファイルから
5択問題を3問作って。
選択肢は全部もっともらしく。
解説は各選択肢すべてに。

外注なら「要件定義→設計→開発→テスト→納品」に数ヶ月。AI Codingなら「思いつく→指示する→5分後に使える」。この速度差が、プロダクトの質を根本的に変える。

ユーザーと開発者が同一人物のとき
フィードバックループは最速になる

Case 2 の学び

  • 自分の問題を解くツールが一番良いものになる:汎用性を追わず、自分の勉強に最適化した。
  • データ構造が命:疾患ごとの構造化データがあれば、問題生成もまとめ作成もAIが自動化できる。
  • 「ついでに」の力:試験勉強のために作ったデータが、外来での説明資料にも使えた。
CASE 03

スライドシステム

このスライドも自作です

PowerPointの限界

学会発表、セミナー、勉強会。医師はスライドを作る機会が多い。しかしPowerPointは「1枚ずつ手作業で組む」ツール。30枚のスライドを作るのに半日かかる。デザインの統一も難しい。

PowerPoint

1枚ずつ手動配置
デザイン統一が困難
テーマ変更で崩れる
バージョン管理不可

→

HTMLスライド

テーマCSSで一括制御
コンテンツはHTMLで構造化
テーマ切替は1行
Gitで完全管理

3層分離アーキテクチャ

ENGINE

共通基盤

16:9ロック、ナビUI、PDF出力、スケーリング。触らない。

THEME

デザイン

カラー、フォント、余白をCSS変数で定義。7テーマから選択。

CONTENT

中身

発表ごとにHTMLを書く。テーマとエンジンは共有。

スライドの作り方

テーマとフレームワークを選ぶ

24種類のフレームワーク辞典からテーマに合う構成を提案してもらう。

Claude Codeに素材を渡して生成

メモ、原稿、論文URLを渡すと、45枚のHTMLスライドが数分で生成される。

ブラウザで確認、エディタで微調整

Webエディタでテキスト修正、要素の移動、スライドの並べ替え。

Vercelにデプロイ、URLを共有

参加者にURLを送るだけ。PDFも1クリックで書き出し可能。

「道具を作る道具」を作ると
生産性が指数関数的に上がる

アプリを作る → スライドシステムを作る → スライドでアプリの話をする。メタレベルの自動化。

3つのケースの共通点

MINATON試験アプリスライド
動機外来の課題自分の勉強発表の効率化
開発者自分1人自分1人自分1人
外注費0円0円0円
開発期間継続的2ヶ月1ヶ月
共通項自分の問題を、自分の言葉で、AIに指示して解決
PART 04

始め方と、
医師がコードを書く意味

始めるのに必要なもの

必須

  • PC:Mac推奨(ターミナルが使いやすい)
  • Claude Code:Anthropicのサブスクリプション
  • 解決したい問題:これが一番大事

不要

  • プログラミングの知識
  • 情報工学の学位
  • エンジニアの友人
  • 開発予算

最初の1時間でやること

Claude Codeをインストール

ターミナルで1行コマンドを実行するだけ。

「Hello World」を作る

「自己紹介ページを作って」と指示する。30秒で動くWebページが完成する。

自分の問題を1つ解決する

小さくていい。「当番表を自動生成するツール」「薬剤量計算機」など。

うまくいくコツ

  • 小さく始める:最初から完璧なアプリを目指さない。まず1機能。
  • 自分が使うものを作る:「誰かに使ってもらう」はあとでいい。自分の問題を解く。
  • 見た目は後回し:動くことが最優先。デザインはAIに任せればそこそこになる。
  • AIの出力を盲信しない:特に医学的内容は必ず自分で確認する。AIは道具であって著者ではない。

よくある質問

「セキュリティは大丈夫?」

患者の個人情報はコードに含めない。公開情報のみでプロダクトを構成する。API鍵は環境変数で管理。

「医療機器規制に該当する?」

診断・治療の意思決定を行わない情報提供ツールは、現行法上は医療機器に該当しない。ただし分野と機能による。

よくある質問(つづき)

「AIが間違ったコードを書いたら?」

エラーが出たらAIに直させる。「動かないので修正して」で大抵解決する。完全に詰まったら新しいセッションで最初からやり直す。

「月額いくらかかる?」

Claude Codeは月額$100〜$200程度。Vercel(ホスティング)は個人利用なら無料枠で十分。外注費と比べれば桁が違う。

なぜ医師「が」作るべきなのか

ドメインエキスパートが作る強み

エンジニアが作るとき

技術的には正しい。しかし「外来の15分で何が起きているか」「親がどこで不安になるか」「この薬は粉にして飲ませる文化がある」といった暗黙知が抜け落ちる。

医師が作るとき

技術的にはAIに任せる。しかし「何を作るか」「誰のために」「どの文脈で使うか」の判断はすべて臨床経験に基づく。この判断こそが価値。

AIは実装の限界費用を
ほぼゼロにした

残るのは「何を作るか」の判断。それは臨床の中にしかない。

まとめ

  • AI Codingにより、プログラミング未経験の医師でもプロダクトを作れる時代が来た
  • 臨床のドメイン知識こそが最大の武器。技術はAIが補完する
  • 小さく作って、自分で使って、フィードバックを回す。このサイクルが最速
  • 「誰かが作ってくれるのを待つ」から「自分で作る」へ

あなたの外来の「あの不便」は
今週末に解決できるかもしれない

Thank you.

岡本 賢 / 愛育病院 小児科

X: @okamon_sen / minaton.jp